最高裁判所第一小法廷 昭和59年(あ)1674号 決定 1985年4月22日
本店所在地
名古屋市北区志賀南通二丁目二四番地
株式会社 ユニオン商会
右代表者代表取締役
佐藤敬一
右の者に対する法人税法違反被告事件について、昭和五九年一一月二七日名古屋高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立があったので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人竹下重人の上告趣意第一点、同第二点は、いずれも原審で主張、判断を経なかった事項に関し、当審において新たに違憲をいう主張であって、適法な上告理由に当たらず、同第三点は、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 矢口洪一 裁判官 谷口正孝 裁判官 和田誠一 裁判官 角田禮次郎 裁判官 高島益郎)
昭和五九年(あ)第一六七四号
○ 上告趣意書
被告人 株式会社ユニオン商会
右代表者代表取締役 佐藤敬一
昭和六〇年一月三〇日
弁護人弁護士 竹下重人
最高裁判所第一小法廷 御中
右の者に対する法人税法反被告事件について、弁護人の上告の趣意は左のとおりである。
第一点 原判決は憲法三九条に違反する。
一、被告人株式会社ユニオン商会(以下被告会社という)は、所轄税務署長から青色申告書の提出について承認を受けていたが、その承認は、昭和五九年二月二二日に至って、昭和五五年四月一日に遡って、取り消された。
二、原判決認定所得金額の中には、被告会社に対する青色申告の承認が公訴に係る各事業年度の法定申告期限後に取り消されたことによる増加額が相当多額に含まれている。すなわち昭和五六年三月三一日決算期の繰越欠損金の当期控除額五九三万九七九三円、昭和五七年三月三一日決算期の市場開拓準備金一、四四九万円、昭和五八年三月三一日決算期の市場開拓準備金一、〇〇一万一、三五二円がそれに該当する。
三、法人税の脱税の罪は法定申告期限を経過する時に成立するのであり、現に本件第一審判決は被告会社が公訴に係る各事業年度の法定申告期限内に「虚偽過少の法人税確定申告書を提出し、被告会社の右事業年度における正規の法人税額との差額……を納期限までに納付」しなかったことを、罪となるべき事実としている。
四、被告会社が、各事業年度の法人税の確定申告に際し、前記第二項記載の各金額を損金の額に計上していたことは、その当時青色申告書提出につき承認を受けている法人として当然のことであり、このことを指して「偽りその他不正の行為」であるということはできない。
五、所轄税務署長が行う青色申告承認取消処分は、取消をするか否か、またその取消の効果をどの時点まで遡及させるか、について裁量を認めたものであり、その裁量は青色申告制度の維持及び普及と課税の公平の確保という行政目的についてなされるものであって、犯罪の成否についてなされるものではない。
六、本件のように、いわゆる青色取消による増加益を除外してもなお実体的には虚偽過少の法人税確定申告書を提出し、法定納期限を経過したことによって、法人税脱税の罪が成立してしまった後三年ないし一年を経てからなされた裁量的行政処分である青色申告承認取消処分によって、遡って、脱税額が膨張する―犯罪事実が拡大する―ということはあり得ないところである。
七、第一審判決およびこれを維持した原判決は、右の点において、刑罰法規不遡及の原則を明示した憲法三九条前段に違反する。
第二点 原判決は憲法三九条後段に違反する。
一、被告会社は公訴に係る三事業年度の法人税について、合計三八四九万六、〇〇〇円の重加算税の賦課決定処分を受け、右税額を納付した。
重加算税賦課の原因となった不正行為、すなわち課税要件事実を隠ぺい、仮装し、その隠ぺい、仮装したところに基いて過少申告または無申告をしたこと、に対し刑罰を課することについて、最高裁判所は、繰返し、「重加算税は、事実の隠蔽、仮装といった方法による納税義務違反の発生を防止し、もって徴税の実を挙げようとする趣旨に出た行政上の措置であって、違反者の不正行為の反社会性ないし反道徳性に着目してこれに対する制裁として科せられる刑罰とは、趣旨、性質を異にするものと解すべきであって、それゆえ、同一の租税ほ脱行為について重加算税のほかに刑罰を科しても、憲法三九条に違反しない」と説示している。
二、しかしながら、重加算税は、行政処分によって課され、税として徴収されるものであり、懲役または罰金は司法手続によって科される刑罰であるという名目上の差異はあるとしても、税法上は「隠ぺい、仮装による過少申告または無申告」であると認定され、刑罰法規上は「偽りその他不正の行為による脱税」と認定される、社会的現象としては同一の行為に対する事後的制裁としての不利益としては、本質的に同一のものであり、特に罰金刑と重加算税とは、同一の社会的行為に対する制裁としての財産的不利益処分という点において共通した本質を有する。
三、この点において、前述のとおり重加算税の賦課決定を受けた被告会社に対し、さらに罰金刑を科した第一審判決およびこれを維持した原判決は、二重処罰禁止を明示した憲法三九条後段に違反する。
第三点 原判決には刑事訴訟法四一一条二号に該当する事由が存在する。
一、仮りに前記二点の上告の趣意が容認され得ないとしても、前記第一点において指適した青色承認取消による増加益は、脱税犯の構成要件である「偽りその他不正の行為」から直接的に惹起された結果ではなく、事後的な青色申告承認取消処分によって、いわば自動的に加算されたものであって反社会性は稀薄なものということができる。
また、重加算税と罰金とが同一行為に起因する二重のかつ同性質の不利益であるという性質は否定することができない。
二、そうであるならば、被告会社に罰金の量刑にあたっては、当然に右の点を酌量すべきであるにかかわらず、認定した脱税額―その算出の基礎となった脱税所得金額に前記の青色申告承認取消による増加算が含まれている―の三〇パーセントの罰金刑を科した第一審判決及びこれを維持した原判決の刑の量定は著しく不当であって、これを破棄しなければ著しく正義に反するということができる。
以上